電子工作で屋上散水を自動制御した結末の話

断熱はそれなりの施したので夏を乗り切れると思ってたけれども、今年の夏はなかなか厳しい。

少し前にテンダーさんのラボにお邪魔した時に、屋上散水を試してみようかと思っている、という話を聞いていた。
あわせて、手頃な価格でarduinoというマイコンがあって、プログラムが扱えるならいろいろ制御できるかも、という情報も頂いていた。

これは屋上散水、いっちょやってみるか。

と、いろいろと勉強しながらも行き当たりばったりでやってみたので、その結末を含めて書き残してみる。

つくってみたシステム概要

つくってみたシステムは下図の感じ。(画像はクリックで拡大)

簡単にいうと、井水を電磁弁で制御し、屋根及び東面の大窓の前に垂らした簾に散水する。

電子回路を組んで作成した制御システムでは、屋内の室温と天井温度、屋外の照度と気圧、温度をセンサリングする。
それをarduinoにデータを取り込み、その数値に応じて散水間隔を変化させてリレースイッチで電磁弁のオン・オフを切り替えた。

合わせて、取得したデータはSDカードに記録して、PCで管理、CADソフトでデータ処理して可視化する。
可視化したデータを分析して、プログラムを修正するというサイクルを回して、最適化を目論んだ。

簾への散水ははじめは計画していなかったんだけど、もともとあった井戸ポンプの性能上、屋根上までの水圧がかかっているとポンプが稼働しないことが判明したためとりいれた。(中間の加圧ポンプを導入する前)
これが、簾への散水と、電磁弁が閉の時に水圧を下げるための水抜き機能を兼ねる。(散水はどちらもホースにカッターで適宜穴あけ)

それで、ある程度は稼働したけれども、最初設置していた屋根上スプリンクラーの圧が足りず、途中で加圧ポンプを追加した。
それでもまんべんなく散水が出来なかったので、屋根上のスプリンクラーを穴あきホースに切り替えた。

外から見たらこんな感じ。

簾への散水。効果の程は分からないけど見ているだけで涼しげ。

そして、屋根散水。穴開きホースの穴を調整してある程度はカバーできるようになった。

回路を組む

なにしろ初めての事だらけで、配管も電子回路の組み立て、プログラムも失敗しながら試行錯誤を繰り返した。回路のハンダ付けなんて小学生以来。

最終的に制御システムの回路図は下記の感じ。


気圧温度センサーがなぜ2つあるかというと、センサーにペットボトルをカットしたものを被せて雨がかかりにくいようにして、外からはしごで設置したんだけど、カバーのせいか外気温が過大な数字になる傾向があったため。
もう一度はしごで取り外して修正するのは怖くて嫌だったので、温度センサーとしての目的で同じものを室内に穴から外に棒で突き出して追加することにした。(品番HW-611をarduinoのフォーラムで検索して、SDOに電源をつなぐとI2Cのアドレスを0x77から0x76に変えられることが分かった。これで0x77と0x76の2つを制御できます。)

arduinoのコードは投稿の最後に付けておきます。

結果は・・・

届いた順にセンサーを追加しながらログはうまく取れるようにできた。

天候やエアコンのオンオフが反映されてます。(無料のBルートサービス申し込んだので、電気使用量も今から反映させる予定)
可視化はVectorworksのマリオネットでCSVを取り込んだものを図形として書き出しています。以前やったLadybug toolの移植で格闘した経験をフル発揮。

サーモカメラで瓦屋根の表面温度をしらべてみる。

表面温度は30度近く下がっている。
これは、かなり期待できそうだ。

晴れた日に散水せずにとったデータと重ね合わせてみると、
▼8/26 散水あり。青が外気温、緑が室内気温、赤が天井の表面温度。薄いのは事前にとった散水なしのデータ。

うん、夜は冷気をとりいれるため窓を開けるように切り替えたので比較のグラフより温度下がっているけれども、昼間は完全一致。

完全一致!?
うーん、散水量が足りないかな。

▼8/28 散水あり。スプリンクラーから穴開きホースに切り替えまんべんなく散水。加圧ポンプも追加。こんどこそ、

うん、完全一致!

▼8/29 散水あり。いやいやいや、気を取り直して

ほら、完全一致・・・
あきらめて冷房入れたよ。まったく。

うーん、うまくいけば自宅や今後の計画に活かそうと思ってたんだけど、ほとんど違いが見えない。
東側の窓は少し涼しく感じるようになったけど、これでは屋根散水の意味ないんでね。

なんでかなーー。
センサリングの問題か、ほんとに効果がないか、わかんないな―

検証

テンダーさんのラボも屋根散水してみたところ、屋根の表面温度は下がるけどほとんど効果が実感できないとのこと。
条件はかなり異なるけれども、これは何かあるはずだ。

なんとか納得できるものを得ようと、建築学会で屋根散水やエクセルギーに関する論文を検索して、概要を片っ端から読んでみる。

そのうちに、こんな論文を発見。

論文の内容を簡単に書くと、「無断熱の屋根散水の効果を実証する論文は結構あるけど、断熱されたものは検証されてないので実測してみたらほとんど効果なかったよ」というもの。

先の論文は、その原因を工学的に分析するところまで行ってなくて、ほんとそうなの?ともやっとする。

うーん、結論としてはスッキリしない。

いろいろ考えた挙げ句、前回のエクセルギー本に日射によるエネルギー・エクセルギーの収支を計算する例が載っていたので、それを参考に、気化熱を反映した計算にトライしてみた。

各種条件から気化熱による値を計算するのはかなり難しそうだったので、気化熱で奪われる熱量を変数として指定する方針で検討。ある程度独立した数字として扱えそうだったのでやってみた。

ついでに、いろいろなパラメーターから日射が室内にどう影響するかをこちらもマリオネットでグラフ化。
そうやって出来たのがこれ。(クリックでPDFが開きます。なかなかの資料だと思う。間違ってるかもだけど。)
→日射エクセルギー
これからかなりのことが読み取れるけれども、断熱性能(熱抵抗値)と蒸散で奪われる熱量との関係を図化した部分がこれ。

気化熱の扱いはもしかしたら間違ってるかもしれないけれども、あってるとすれば、
蒸散によって奪われる熱量と内部に向かうエネルギー、屋根の表面温度の増減は比例するっぽい。
屋根の表面温度は断熱性能とそれほど大きくは相関しない(熱抵抗値が上がると内に向かう熱量が減る分、むしろ表面温度は上がる)。
しかし、内に向かう熱エネルギーとエクセルギーは断熱性能が上がるほど目に見えて減少し、熱抵抗値4.0だと絶対値として気化熱の影響はほとんどうけなくなった。

断熱性能が上がると、内へ向かう熱量ももちろん減るが、伝熱のスピードもかなり減速し、昼夜のリズムの中では他の要因によってほとんどかき消されるものと思われる。

うちの事務所の屋根は熱抵抗値4.3以上あるはずなので、それは効果が実感できないはずだ。暑くなるのは他の要因が大きいのだろう。

ちなみに、テンダーさんのラボは屋根の断熱性能はほとんどなさそうだけど、天井があり、ほとんど換気されない小屋裏空間がかなりの容積で存在する。
その小屋裏空間の熱容量はかなりのもので、そこが熱溜まりとなって屋根散水の効果の多くをかき消していると想像される。

結論(仮)

結論としては、高い断熱性能の屋根では屋根散水はほとんど効果がないため、他の部分で対策を考えたほうが良い。
また、小屋裏空間を設けて、夏はそこを十分に換気するというのも大きな意味がありそう。
断熱性能が低く屋根裏が剥き出しのような建物の場合は、屋根散水の効果がある程度は見込めそうだし、費用対効果は高いと思う。(水道代は未検証。雨水とポンプで考えれば割りと安くできるはず)

ここで学んだのは、例えば蒸散によって冷エクセルギーを得ようとした場合、どこでそれを得るかの考えが重要、ということだ。

私はエアコンが苦手なので、エアコン無しで夏の大部分を乗り切ろうとした場合、どこでどうやって冷エクセルギーを得るか、夜間に蓄冷をどうするか、ということが重要かもしれない。その際、植物の振る舞いはとても参考になりそうな気がしている。

窓の向きや大きさは大きな要素だけど、断熱性能だけに頼って、窓をとにかく小さくするようなのも、何か楽しくない。

夏冬の相反する条件をうまく対処して、それが楽しさへとつながるような家ができないものだろうか。

こんなに効果ありました―!というブログを書くつもりが、こんな結果になりました。
おかげで、かなり突っ込んで考えられて感覚も掴めてきたので結果オーライということで。

arduinoコード

ボタンスイッチとシリアルモニタからある程度制御できるようにしてます。内容はコード内のコメント見てください。
(メモリの96%を使用。このタイプのarduinoではあまり複雑なプログラムはできなさそう。)
→onoken1.txt
いろいろ購入したもののリストは気が向いたら作成します。(失敗もあり)
主だった購入リストをamazonの欲しい物リストにまとめました。

Amazon 欲しい物リスト

・arduinoは互換品だったけど、今のところ問題なさそう。
・気圧温度センサーは、湿度測れるって書いてたのでこれにしたけど、測れないっぽい。3.3Vではなく5Vのものにしたほうが良かった。湿度測るなら、BMP280ではなくすこ少し高いけどBME280にするべきかと。
・原因は分からないけど、このSDカードリーダーはaruduinoの電源をアダプタから取ったときにうまく作動しなかった。次買うとすれば、もっと定評のあるものにするか、原因を突き止めるか。(追記)アダプタを9V2Aのものから12V1.25Aのものに変えるとちゃんと作動しました。
・接触式のリレーはカチカチなるので、気になる場合は非接触式がいいかも。耐久性も高いそう。
・ポンプなんかはもっと適したものがありそう。井水使わないなら、雨水溜めて、もう少し性能の高いものにしたかな。

あと、買ったものはほとんどが、説明書等が全く無くてものだけだったので、説明書なりメモがついてるものか、ネット上に情報が載ってるものを使ったほうが良いと思った。例えば、LCDやSDカードリーダーも接続等迷って動かすのにそれなりに試行錯誤が必要だった。I2CとSPI通信はだいたい分かったかな。

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