1

家づくりは生活の優先順位を決めていくこと(設計事務所に頼むと高くつくの?)

予算に合わせて考えるということ

「設計事務所に頼むと高くつくのでは。」という疑問を耳にすることがよくあります。
これに対しては、全く違うとも言えますし、その通り、とも言えます。

どういうことかと言うと、メーカーなどの商品住宅は、ある程度決まった仕様・グレードの中から予算にあったものを選ぶことになりますが、多くの設計事務所の場合では、特にこうしなければいけない、という縛りはありません。全てにおいて、限りないあらゆる選択肢の中から、予算に合わせた組み合わせを考えていく、という作業を積み重ねていくことになります。

ただ、初めて経験する家づくりで、無限とも思える組み合わせを決めていける方はほとんどいないと思います。
そこで、設計事務所がプロの視点と経験から先導しつつ、お客さんと一緒に組み合わせを考えていくことになります。(最近はお客さんも様々な情報を手軽に集めることができるようになったので、逆にそれまでなかった選択肢を教えていただくこともあります。)

とにかく安くすることだけを目的に組み合わせていけば、当然安く抑えることが出来ますし、逆に、どれもこれも高価なもので組み合わせていけば当然高くつきます。
設計事務所を訪ねてこられる方は何かしらこだわりのある方が多いので、結果として高くなる傾向があり、それが、「設計事務所に頼むと高くつく」というイメージに繋がっていることはあるかも知れませんが、基本的な姿勢としては、お客さんの予算に合わせて要望を叶えるための最適解を見つけていく、ということが設計という行為だと思っています。

家づくりは生活の優先順位を決めていくこと


いつもお客さんには、家づくりは、生活の中で自分が大切にしたいものは何か、を探しながらそれらの優先順位を見つけ決断していく作業だと説明しています。

限られた予算の中であらゆることを満たすことはできないので、必ずなにかしら優先順位を付けなければいけないのですが、それを楽しく、メリハリをつけてできれば家づくりの8割はうまくいったようなものです。

潤沢な予算があれば別ですが、ここで、優先順位を付けられず、全て同等に扱ってしまうと、予算内に抑えるためには結局はすべてにおいて求めている基準に満たない、といった魅力に乏しいものになってしまいます。

よく、動物園で人気の動物など自然界の形態を例に出すのですが、象やキリン、サイやカバ、どれも何か一つを突出させた特徴的な形をしています。それが多くの人に人気があるのは、そういう割り切りのようなものに生きていく力・躍動感のようなものを感じるからではないのかな、と思っているのですが、住宅も同様に、優先順位にメリハリを感じられるものは愛着の持てる魅力的なものになっているように思います。

割り切りが必須になりつつあること

職人不足や建築資材価格の上昇などにより建設費用はじわりとじわりと上がり続けています。また、決して悪いことではないですが、構造や断熱などもそれなりの性能にすることが普通になりつつあるので、基本性能を満たすための必要コストは以前にまして大きくなっています。
加えて消費税の増税などもあり、10年前にはできたことが今同じ価格ではなかなか実現しづらくなっています。

さらに、平均年収も下がりつつあることを考えると、10年前よりも、優先順位を明確につけてメリハリのある予算配分を考えることの必要性が大きくなってきていると思います。

事務所としては、比較的高年収のクライアントに絞り込めばそれほど問題にならないのかも知れませんが、やはり、いろいろな人に家づくりの楽しみを知ってもらいたいという気持ちを捨てることは難しいです。(ローコストばかりでは事務所の経営的には厳しくなるのですが・・・)

家づくりのコストには、構造や断熱などの基本性能、設備や仕上げ等のグレード、大きさや建物形状、その他様々な要素が絡んできます。その中で、例えば、断熱等の基本性能を満たすことを優先させるために、必要な部屋や面積、時には間取りの常識を問い直して、思いっきって小さな家にしてしまう、というような割り切りが必要になることは増えてくるように思います。
その時に、一見ネガティブな決断をその家の魅力へと転換するために、設計事務所の持ついろいろな引き出し・アイデアが必要になってくるのです。(と、同時に施主自信がそれを楽しむようなメンタリティも必要です。)

例:HTGH ~UA0182C027の家


実績ページ:HTGH ~UA0182C027の家
この家は当初、2階建てで計画していたのですが、ある日、お客さんから、高断熱・高気密の仕様(鹿児島ではなかなかないようなハイグレードな仕様)に変えたい、という連絡がありました。その際、今まで考えていた2階部分はそっくり取りやめにして1階部分の面積で構わない、と言われたのですが、とてもびっくりしました。

普通は、それまで見てきた計画案に未練が残り、何かを大きく減らす、という決断はなかなか出来ず、いろいろなところを少しづつ削っていくという選択になりがちです。
それはそれでやりようがあるかも知れませんが(現実的に無理なケースもありますが・・・)、このお客さんは、快適な熱環境を実現したい、ということの優先順位をはっきりと前に打ち出したため、それを実現できただけでなく他の部分に関しても無理のない予算を割くことが出来ました。

経験的には、コスト調整の過程でお客さんが様々な選択をしていくことになりますが、出来上がったものを見ると決して妥協の産物ではなく、はじめからその様に計画していたかのように思えることがほとんどです。コスト調整は、丁度よい塩梅を見えつけるための作業とも言えます。

土地と建物のバランスについて

また、土地から購入される場合、土地と建物の予算バランスも重要な要素になってきます。
土地と建物の総予算が3000万円で考えているのに、土地に2000万円かけてしまえば、建物にかけられる予算はかなり厳しいものになってしまいます。(実際、土地を購入後に相談に来られた方で、これに近いバランスのケースも少なくはないです。)

叶えたい生活によっても、土地と建物の予算バランスは変わってきますし、一見不利な条件の安い土地が建築的な工夫で魅力に変えられることもあるかも知れません。
可能であれば、土地を探している段階で相談に来られることをおすすめします。

例:MKGT ~南郡元の家


実績ページ:MKGT ~南郡元の家
この家のお客さんが相談に来られたとき、2つの敷地で迷われていました。
一つは14.3坪の土地で、もう一つは18坪の土地。後者の方の土地はいろいろな条件から前者の2倍以上の金額でした。(建ぺい率/容積率は60/200と60/160)
お客さんとしては前者のエリアのほうが馴染みがあるけれども、さすがに14.3坪は難しいだろうし、環境としては後者のほうが良いように思う、ということで悩まれていました。

総予算をお聞きして、試算してみたところ、後者では建物にかけられる金額がかなり厳しく、思い描くようなものを実現することは難しいように思われました。
そこで、なんとか建物の方を工夫すれば良いものにできると思うので、予算の上限を上げることが難しいのであれば、こちらを選んだ方が良いのでは、と小さい方の土地を推薦したところ、それを信じて頂いて、そちらで進めることになりました。

スキップフロアーを採用し、床下収納やロフトを組み合わせることで、妥協的ではないプランをまとめることができたのですが、結果的には、仕様的にもほとんど妥協せずに進めることが出来ました。お客さんにも満足して頂けたと思います。

そもそもの予算について

ところで、ここまで、家造りの総予算と言う言葉が何度もでてきていますが、そもそもの予算はどうやって決まっているのでしょうか。
今までは、総予算はお客さんの方で決めて頂いて、それをもとに計画をしてきましたが、本来であれば、将来のライフプランとファイナンスプランによる具体的な数字を算出し、それをもとに決定した方が、より適切な金額を採用できますし、何よりお客さん自信の不安が取り除かれより前向きに家づくりに取り組めるはずです。

その部分は、今までなかなかアプローチできなかった部分ですが、お金に関する諸々に対しても責任を持って提案・サポートできるような体制を近いうちに準備したいと思っています。




テナント現場

某テナントの現場がだいぶ仕上がってきました。

本体建築の検査関係で建築工事の工期が年初の1ヶ月弱しか無くバタバタでしたが、なんとか納めて頂けそうです。

しばらく間をおいてから、サインや金物などの雑工事を行う予定ですが、こっちは余裕を持って検討できそう。




プレカットの打ち合わせ


今日はプレカットの事前打ち合わせでした。

今は木造の軸組を大工さんが手刻みで加工してくることは少なくなり、ほとんどが工場での機械加工(プレカット)になっています。

設計図を元に起こしたプレカット図面を、設計者と施工者(現場監督・担当者)、プレカット会社の三者で時間をかけて入念にチェックするのですが、ここが現場監理の一つのキモであり、三者の能力が問われるところでもあります。

現場に入ってから後で慌てないように、構造強度に関することはもちろん、木の組み方、金物との取り合いや作業性、室内の仕上げ方や設備配管のルート、その他様々なことを想定しながらチェックしていきます。

自分は設計者なので、当然一通りは頭の中に入っています。毎回チェック漏れのないつもりでこの打ち合わせに臨むのですが、ここの監督さんは、それ以上に現場目線からよりきれいに納まるようなポイントをいくつも指摘・提案して下さります。事前に図面の隅々までを頭に入れて、つくる過程を綿密にシミュレーションしていなければ、できることではありません。
打ち合わせもそれだけ長丁場になりますが、おかげで安心して現場を進められ、ありがたいことです。(と言って気を抜いて相手任せになればミスのもとになりますが)
 
また、プレカット会社まかせの設計者や現場監督も多いと聞きます。プレカットの担当者もプロで、図面を見てかなりの配慮はしてくれていますが、それにも限度があります。それでも現場がまわっているのは考えなくてもつくれるような単純な、もしくは一般的なつくりなのか、後で現場でつじつま合わせをしているかどっちかなのでしょう。(前者には前者なりの利点がありますが。)

うちは、スキップフロアーなどの複雑な構造や、メリハリをつけるために木の組み方や寸法を攻めてたりすることが多いので、どうしても、知恵を持ち寄るこの打ち合わせは欠かすことができません。
毎回、そうやって力を合わせていただけるおかげで実現できているのだと思います。




VECTORWORKS 2020


先日VECTORWORKSの2020年版がリリースされたので、早速入れてみました。

新機能のうち、期待しているのは
・データマネージャ
・新しいウォークスルーアニメーション
・履歴ベースの3Dモデリング
・作業中のデータの可視化
など。

特にデータマネージャは昨年追加されたデータタグと組み合わせることで、かなりの効率化と整合化ができると思うのですが、少し触った感じでは、まだ思うように使えていないです。想定外の挙動もあるのでサポートにも聞きながら使いこなせるようにしたいところです。

ウォークスルーアニメーションに関しては平面的にパスを指定することで自動で階段を登ったり、360°ムービーが作成できたりと、かなり使い勝手が良くなっていそうです。これまでのバージョンはアニメーションがかなり使いづらかったのでそれほどは期待していなかったのですが、想定よりずっと良いように思いました。

新しいことをどんどん覚えていかないといけないですが、ソフトウェアでできる効率化はとことんやって、できる限り検討に時間を割けるようにしていこうと思います。




暮らしをつくる

コムストアで「暮らしをつくる」をテーマに、ブルースタジオ大島さんとアカツキ建築設計二俣さんのトークセッションがあったので行ってきました。

あえて強調すると、大島さんは俯瞰した視点から、関係性を編み込みながら暮らしを編集するような外からの視点、二俣さんはものをつくる手さばきの中から暮らしを組み立てていくような内からの視点。そのバランスがとてもいい感じのトークセッションでした。

20世紀に躍起になって求めた利便性の多くは、関係性を断ち切り、生活・暮らしを切り売りしていくことと引き換えに得られたものが多く、その過程で生活がどんどん受動的なものになっていったように思います。

仮に20世紀を受動と分断の時代だとすると、21世紀はこれまで手放してきたものに光を当て、関係性を紡ぎながら再び手元に引き寄せていくような、能動と関係性の時代となっていくはずです。

そんな時代の中で暮らしをつくっていくには、関係性を編み込むための俯瞰的・編集的な視点と、関係性の拠り所となるようなものをつくる手さばき、そのどちらもがますます重要になってくるのでしょう。

(トークを聞きながら、そんなことどっかで書いたなー、と思ったら「雑木林と8つの家」に参加した時でした。スライドをアップしたのを思い出して、検索したらまだ残ってた。 https://www.slideshare.net/onokennote/320-12123035 めっちゃ懐かしいし、今考えても思いのこもった良いプロジェクトだったと思います。)




下竜尾町の家 地鎮祭


下竜尾町の家の地鎮祭でした。

今回、第一種低層住居専用地域で軒高が7mを越えていたこともあって、コンパクトな住宅でありながら、日影、北側斜線天空率、標識設置届と近隣説明、景観法の届出、崖相談、省エネ計算と全部盛りのような感じでした。
時間がかかりましたが、標識設置届の写しと確認済証を待っていよいよ着工に漕ぎ着けられそうです。

10年ぶりくらいに作る書類も多くて、いろいろ思い出しながら復習にもなりました。

着工が楽しみです。




2020 明けましておめでとうございます

新年明けましておめでとうございます。

旧年中は大変お世話になりました。

おかげさまで、次の12月で事務所立ち上げの展覧会を開催してから10年になります。
今年は次の10年に向けての研鑽と変革の年とすべく、また、建築・設計を通してさらに良いサービスが提供できるよう、誠心誠意向き合っていく所存でございます。

皆様のご健勝と益々のご発展を心よりお祈り申し上げるとともに、本年も変わらずご愛顧を賜わりますようよろしくお願い申し上げます。

2020年 太田則宏建築事務所  太田則宏