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MEMO「壁」

「沈黙している壁には、精神性を感じる」と修行僧は言う。壁に向かって座禅をくむ。つまり、壁に心をこめることにより、建築がつつみこむ空間の中に、静けさやモノの深さを感じるのであろう。
・・・立ち止まる壁力強い壁視線をさえぎる壁優しい壁誘導する壁緊張する壁囲い取る壁艶をもつ壁つなぐ壁光を受ける壁自立する壁光を反射する壁連続する壁研ぎ澄まされた壁
壁にはそれぞれの役割がある。・・・
私は都市の中に建築を据えるとき、自然と向かい合う自立した壁の在り方を考えている。壁によって分割された内と外の空間の在り様に興味を見いだしている。
・・・木と土でつくられた日本の優しい壁と、石でつくられた西欧の力強い石積みの壁・・・これらの壁がバランスよく表現されているような、両者を兼ね備えた壁をつくりたいと思っている。・・・
壁が強い意志を表すとき、これらの壁は厚く中身のつまった重たい壁になる。壁の存在は、密度の濃い壁、その対極にある存在を消す薄い壁、そして、表面のテクスチュアに在るようだ。
・・・シークエンスの展開は壁の配列にリズム感を与え、面として存在する壁の立ち方や壁の中にくり抜かれた開口部、壁と壁の隙間から見える風景を感得する。
・・・うつろいゆく光は表現される壁のテクスチュアの度合いによって空間に色合いをつける。また、壁と壁のズレや壁が向かい合うことによって優しい壁、強い壁、存在する壁になるように意図的に表現している。(竹原義二)