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YNGHについて

吉野の家も検査済証が降り今週末にオープンハウスを開催できることになったので、この機会に設計しながら考えたこと、またはできてみて感じたことを書いてみようかと思います。
後で短くまとめるつもりでまずは思いつくままに書いてみます。

構成について

全体が90cm程度の段差で床をぐるぐると登っていく、螺旋状のスキップフロアーになっています。
一番最初の案はもう少しオーソドックスな2階建ての案だったのですが、打ち合わせを進めていくうちにスキップフロアーによる床のズレを利用した方がお客様の要望、動線や部屋と部屋の関係性の問題を上手く解決できることが分かってきて途中で大きく案を変更しました。

これによって様々な方向に視線がつながり、奥へ奥へと空間が緩やかに連続して行く、家全体があるひとつのまとまりをもつような場所が生まれたように思います。(通常の総2階建てでは部屋のつながりは横と横、又は吹き抜けを介して上下までしか取れないことが多く、関係性も単調なものになりがちですが、スキップフロアーだと横斜め上、横斜め下というように倍のつながりを生むことが可能)

また、中央に物見台と物干しを兼ねたトップライトスペースを設けることで、各部屋へとガラスを通して光が降り注ぐように考えています。
小屋組(屋根を支えるための骨組み)レベルでは極力壁を設けずにガラス張りとすることで、部屋と部屋との境を超えて屋根を見通せるようになり、これが「家全体があるひとつのまとまりをもつ」ことを強めています。

部屋を部屋として閉じた場所にしてしまうと、広がりとしてはその部屋の実質容積分しか感じられないことが多いですが、それではもったいないと常々感じています。(よく考えられた茶室のように、抽象化された小ささが逆に広がりを生むような場合もあります)
それに対して、つながりの中で「家全体があるひとつのまとまりをもつ」ことが、たとえ小さな家であっても、「視線が抜ける心地良い広がり」と「家というまとまりに包まれている安心感」を生む一つの解決策になると思います。

このあたりの、抜けと包まれ方のバランスのイメージはその家族によって違ってくるのですが、今回のお客様は3人の親子が小さな宝物のような家に優しく包まれているのがいいな、というのがスキップフロアー案ができた頃からイメージとして固まって来ました。

スケール感について

その「小さな宝物のような家に優しく包まれている」感じを出すために、空間のスケール感と素材が大きなテーマになりました。

空間のスケール感というのは、心地良いと感じる調度良い部屋の大きさというようなことです。
広すぎると気持ちがいいけど何か落ち着かない。狭すぎると、落ち着くけど何か圧迫感がある。その空間をどのように感じてもらいたいかで、どのような寸法を採用するかが決まってきます。

今回は幅1.5間(2730mm)を基準とした部屋がぐるっと廻るように構成されていますが、1.5間というとそれほど広いと言える寸法ではないです。
また、個室部分は2m程度の高さから屋根・天井がかかっていて、これも小屋裏部屋ではないですが、それほど高いと言える寸法ではないです。

そんな、ちょっと狭いかなというギリギリの寸法の中に視線の抜けや空間のつながりを持ち込むことで、家に手が届きそうな等身大の関係性の中で心地よさと安心感を感じられる場所になればと思いました。
これが、もう少し大きな寸法だと人と家との距離はほんのちょっと遠く感じるかも知れません。
(寸法を絞るというのはコストを絞るという意味もあるわけですが。)

また、その人と家の距離感を考える上でも素材の選択が大切だと思います。

素材について

床は桧の無垢材に蜜蝋ワックス(一部ウレタンクリアー)、壁・天井は桧構造用合板をそのまま使っています。
コスト的な問題と下地材(通常は仕上げとして表にでない材料)を仕上げに使う事の見え方の心配から、壁・天井をビニールクロスにしてしまおうかと結構悩んだのですが、結局最後は構造用合板にしました。(設計時は違う木質系の材料だったのですが震災の影響か粗雑なものしか手に入らなかったので現場で変更しました)

ものにはその素材の持つ奥行きのようなものがあると思うのですが、この家の人と家との距離感や広がり感を考えるとどうしてもビニールクロスは避けたかったのです。
ある程度の広さの空間であればビニールクロスでもいいこともあると思うのでうが、今回のように人と家の距離が近い場合には、ビニールクロスのような奥行きのない材料だと、家が他人行儀な感じになったり空間を限定して広がりを損なってしまうような気がします。
ビニールクロスのような工業製品は「もの」そのもの以上の奥行きを持たせることが不可能ではないにせよ難しいと思うのですが、今回壁に使ったような材料は節があったりとムラのあるものですが、それゆえに「もの」を超えた奥行きを持っているように思うのです。
また、ムラのある材料をどのように貼るかというのも大きくは大工さん個人の裁量によるので全てをコントロールできません。ですが、そのコントロールしきれない感じがまた奥行きを強くするように思います。

ぎりぎり僕の世代くらいまでは、普通にそういう奥行きを持ったものに囲まれた環境で育つことができたので、そういう世代の人に対してはどういう材料を使いなさい、とは思わないのですが、現代の生活環境の殆どは奥行きのないコントロールされきったもので囲まれていて、多くの子供達はその中でオトナになっていきます。
そんな中、せめてそこで育つ子供たちには、もっと奥行きのある材料に触れる機会を残してあげるのが大人の(もしくは僕の)一つの責任というか、役割のような気がしています。
床をウレタン等の塗装で塗り固めてしまった方がクレームも少なく簡単なのですが、ワックス程度でとめて木が本来持っている奥行き感を消さないようにしたのもそういう理由からです。

スケール感や素材感は人によって感じ方が違うし図面の段階で100%把握することは不可能なので、出来上がるまではどきどきしっぱなしでしたが、できてみれば上手くいったように思います。

設計の途中からテーマにあげていた、「手のひらにのる宝物に包まれたような家」というようにお客様が感じてくれたら嬉しいです。

ここまで読んでくれる人がどれくらいいるか分かりませんが、文字では分かりにくいと思いますのでオープンハウスに足を運んで頂けたら。
(近日中に内観写真をアップする予定です)