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B070 『意中の建築 下巻』

意中の建築 下巻 中村 好文 (2005/09/21)
新潮社

中村好文・下巻。

やっぱり建築って素敵だと思う。

中村さんはあとがきに、学生から「建築家になるための才能や資質」を問われたときの答えとして次のように書いている。

「もし、僕みたいな市井の住宅建築家になるつもりならね…」と前置きをして、私がまず挙げるのは、
・計画性がないこと
・楽天的であること
のふたつです。もちろん、ほかにも「日常茶飯事を惰性から祝祭に変えられる才能」とか「清貧に耐えられるしなやかな精神」とかもっともらしいことも言いますが、なんにしても最初のふたつは備わっていた方がよいと思います。

うん、妻には申し訳ない(?)がこれらには自信ありだな。

それは、喜ぶべきことのはずだ。きっと。

建物見学で計画性がなくて楽天的といえば、僕もけっこう無茶をしたりしたことがある。
この本でも最初に出てくるサヴォア邸。
パリ郊外にあるコルビュジェの傑作ですが、学生の時に見に行きました。しかし、ここで漫画のようなことが起こりました。

今考えると馬鹿丸出しですが、若気の至りと思って軽く笑ってください。

行ってみると、サヴォア邸は改修工事中らしく見学不可になっていました。しかし、結構な高さの塀越しに中の様子を伺うと人の気配がありません。

はるばるフランスの田舎まで来たのです。

ちょっと、近づいて写真撮るぐらいならいいかな。という誘惑に駆られました。

下のGoogleEarthで見つけた画像で言うとちょうどAのあたりの塀を乗り越えて建物に近づこうとした時、Cのあたりから一匹の犬がひょこひょこ出てきました。

ges.jpg

何じゃ、と思ってとっさにBの位置の木の影に隠れると、その犬はふらふらと歩いてまたCのところに戻りました。

なんか、やばいかなぁと思っていると、今度は犬と一緒に太ったおじさんが一輪車のようなものと草すきフォークを持って出てきて庭掃除を始めてしまいました。

人がいたのかと後悔するも、どうすればよいか分からずただ隠れてじっと身を潜めていると、能天気そうな犬がひょこひょここっちへやってくるではありませんか。

そして、その犬となんとなく目が合ってしまったのですが、別に吠えるでもなくご機嫌であたりをふらふらと歩き回り、ある時突然、その犬は僕の隠れているちょうどその木の幹に片足挙げてショーベンを始めたのです。

なんとなくおちょくられてる気がしてきた時に、おじさんが一輪車を押して犬の方へ(つまり僕の方へ)近づいてきました。

こりゃだめだ。と思い、僕は意を決し、フランス語は分からないので『アイムソーリー』といいながら、敵意がないのを示すために両手を上に挙げて出て行きました。

すると、太ったおじさんは白い顔がみるみる赤くなってなにやらもごもご言い出しました。

そして、僕は文字通り「つまみ出され」ました。

と、これだけのことですが、そのショーベンシーンがあまりに漫画チックで記憶に焼きついています。

楽天的というよりは無謀な話でした。撃たれなくて良かった。

ちなみに、一緒に見学に行った同じ建築学科のクールなツレは僕が塀を登ろうとしたとき「俺は他人のふりをする。ちゅうか他人や」といってその辺をぶらぶら散歩し始めました。

そっちが正解。