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建築が築く新しい関係性の芽 B249 『建築家の解体 Reinventing Architects』(秋吉浩気)

秋吉浩気(著)
VUILD BOOKS(2022/02/16)

興味はあったのだけど、twitterで予約受付開始のアナウンスがあってから、あっという間に限定1000部が完売となった。
購入を逃したと思っていたところ、たまたまtwitterを開いた時に1件キャンセルが出たとの情報を受け、慌てて購入した。
なので、おそらく滑り込みでの1000人目の購入者になったんじゃないだろうか。(残念ながら巻末のナンバリングは1000ではなかった。)

建築が築く新しい関係性の芽

たとえば、初期のデジタル建築家たちは、最終的なゴールとして、連続した複雑な形状にこだわっていました。(中略)そこにはなぜ曲面や複雑な形状を必要としているのか、その理由がなかったのです。私たちは、デジタル技術をつかって何ができるのか、これまでと何が異なるのかを問いたかった。(Giils Restin p.27)

何年か前までは、人びとはまだ、美しいファサードや建物の空間体験にしか注目してきませんでした。しかしいま、そうした建築の表現と本質的な部分との間に、より意味のある関係が築かれています。(Philip Yuan p.221)

コンピューターデザイン/デジタル建築と聞くと、うねうねとした複雑な形状のものをイメージしていたけれども、デジタルが生産とアントレプレナーシップとつながることで、新たな状況が生まれている。

この本は、そういう新しい状況を切り開いている30代若手建築家にインタビューしたものであるが、そこでは例えば、民主化、エコロジー、労働、ポスト資本主義、ローカリティと文化、技術、美学、経営など、さまざまなテーマとの接点、建築と社会との新しい関係性が築かれつつあることが分かる。

著者が、「おわりに」で

ぼくが影響を受けた人たちを紹介することで、さらに彼ら/彼女らに影響を受ける人が増えると、日本の建築業界も変わるのではないか-こうした最先端の文脈がどう共有できるかを考えたかった。(p.226)

と書いているが、まずは著者自身がここで紹介されている人たちのやろうとしていることを、日本で率先して実践していることに敬意を払いたい。

建築家の解体

磯崎新の『建築の解体』になぞらえて『建築家の解体』というタイトルであるが、建築家が解体されることによって私たちは何から開放されるだろうか。
個人的には建築家の解体というよりは、建築家の拡張というイメージを持ったけれども、解体という言葉で著者は何を伝えようとしているのだろうか。

建築の解体以降、建築家という主体による表現としての建築を解体し、表現を主体から開放することが試みられたように思うが、それはあくまで表現のレベルの話であり、建築家が設計を行い、施工者がそれを実現するという形式は崩れていない。
しかし、デジタルが生産の分野にも喰い込んでいくことによって、その形式が崩れつつあるというのが大きな流れかと思う。

設計という行為を民主化する、というのが一つの流れであり、著者の目指している方向のように感じたけれども、その一方で、建築家が解体された後に、どのように建築が可能か、という問いが生まれる。

しかし重要なのは、建築そのものをあきらめないことです。建築を考えずに技術や製品を開発することには危険が伴います。技術を開発しながらも、展覧会をおこない、自分の作品について書き、スペキュレートする-つまりは、建築家でありつづけることが大切なのです。(Giils Restin p.56)

例えば、レツィンは建築家でありつづけることが大切であるといい、ディスクリート(離散的)建築の美学のようなものの可能性をみているけれども、おそらく、各々の実践と並行して解体された建築家像を新たに組み直す必要があるのだろうし、例えばシステムが一般の人々を建築家とするような、建築家なしの建築家、とでも言えるというような方向性も進んでいくように思う。
そういう新しい建築家像を切り開いていけるという意味では、とてもエキサイティングな時代だ。

私自身は、今から起業して、デジタルと生産を結びつけるようなアクションをとれるか、と言われれば、正直そういう熱量を持つことは難しいように思う。

ただ、デジタルが、建築の解体以降続けられてきた建築家という主体から建築を開放する試みをより促進させるものだとすると、その可能性を享受できるようなアンテナは張っておきたいし、一プレイヤーとしてそういう流れを後押ししながら活用することは模索していきたい。

日和った結論ではあるけれども、著者や若い人にはその道をどんどん切り開いていってくれることを期待したい。

実践編と呼べそうな『メタアーキテクト』も読んでみよう。

(建築情報学会も入会しながらほとんど追えていないので、今年度はもう少し時間的余裕を確保したいです・・・)