色鮮やかな想像力 B303『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』(スザンヌ・シマード)

スザンヌ・シマード (著), 三木 直子 (翻訳)
ダイヤモンド社 (2023/1/11)

以前読んだ『よくわかる土中環境』でも、菌糸が土中にネットワークを作り、栄養や情報などのさまざまなやりとりをしている、という記述があった。
その時は、経験に基づく想像の話なのではないか、もしくは、ちょっとしたエビデンスがあったとしても、少々大げさなんじゃないだろうか、と半信半疑だった。もし、経験に基づく直感が正しかったとして、どうやってそれを証明するんだろうと。

本書を読むと、そういう疑問は一掃された。
著者が森に対して、どういうきっかけで疑問を抱き、どのような実験によって、どのような結論を得られたのか、本書にはつぶさに描かれていた。

確かに、土中には、菌根菌によるネットワークがあり、木々は水や栄養を状況に応じてやり取りしているようだ。そこに存在する多様な生き物がそれぞれ何かしらの役割を担い、受け取ったり与えたりといった相互扶助的な複雑な関係がネットワーク、いやメッシュワークをなすことで全体としての生態系が維持されている。その中でもマザーツリーと呼ばれる古木は、その大きさと経てきた時間によって特別な役割を担っている。

土が土する、菌が菌する、木々が木々するような、それらの営み。インゴルド的なライン・はたらきが土の中で躍動し、地上や川や海とも関係を築いている。
陸を単なる固形物ではなく、海のようなメディウムとしてイメージすること。本書は、土中の躍動に対する想像力をかなり引き上げてくれたように思う。

また、実験の内容が丁寧に描かれているため、科学的な理解も少し進んだ。

おそらく、現代において一番不足しているのが、経験に基づくこれらの想像力、関係を分割するのではなく、関係が編み合わされること対する想像力であり、科学はその想像力を補うことにこそ必要なのだろう。

ほとんどの建築においても、これらの想像力のほとんどは切り捨てられ、ないものとして扱われているのではないか。
これまでのほとんどの時間を空間を考えることに当ててきたわけだけれども、実のところ、空間があまりにも狭い範囲に限定された概念になっていないだろうか。

設計者として、空間を魅力的もしくは意義のあるものにするのは当たり前だとしても、これらの想像力を欠いた世界はもはや色褪せて見えてきそうな気がしているし、実はずっと昔から追い求めていたのは、今、色鮮やかな姿を現しつつある、その想像力の側にこそあったのではないか、という気がしている。

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