2羽のスワンによる世界の変化の序章 B256『資源の世界地図』(飛田 雅則)

飛田 雅則 (著)
日本経済新聞出版 (2021/5/26)

『レアメタルの地政学:資源ナショナリズムのゆくえ』と一緒に買った本。

前回のはレアメタルに特化した本であったが、こちらは資源全般について世界的な傾向をコンパクトにまとめたもの。
とは言え、時勢柄、やはりレアメタル、そして中国が大きな存在感を示している。

中国、中東、ロシア、アフリカ、日本と各地の事情が描かれるが、ウクライナ侵攻前のロシアの比較的近年(2021/5出版)のエネルギー事情も描かれており、概要を掴むためには一読の価値があるかと思う。

「はじめに」で2020年に2羽のスワンが現れたという。
一羽はコロナを契機に起こった金融市場でのリスクである「ブラックスワン」、もう一羽は、脱炭素化時代の気候変動リスクの「グリーンスワン」。
(ちなみに、「ブラック・スワンという名前は、オーストラリアで黒い白鳥が発見されたことで、白鳥は白いものという、それまで長い間信じられてきた常識が覆された話に由来する。(『不確実性の高まる世界において。デジタル化がオフィス市場にもたらす影響の考察 |ニッセイ基礎研究所』より)」そう。)

どちらも、今後の世界のあり方に大きな影響を与えることは間違いない。

あいかわらず、中国の勢いは凄まじく、「一帯一路」構想として資源国に投資して関係を深めていく様子が描かれるが、「借金の返済の代わりに資源権益やインフラを手渡すことになる「債務のワナ」に陥る」リスクがくすぶっている。
世界的に資源の調達リスクは高まるばかりだが、2010年のレアアース・ショック以降、日本がレアアースの中国依存度を9割から6割に下げていたり、コンゴなどの人権問題や紛争地と関連のある鉱物を管理・除外する制度をデジタル技術も取り入れながら整えつつあったり、と、改善の流れも生まれつつある。

とは言え、

今、脱炭素化をはかるためにエネルギー転換とデジタル転換は必須である。しかし、そこにはたくさんの矛盾があり、不安定な足場を歩かざるを得ない。
進むも退くも、どちらも茨の道だ。
矛盾のいくらかは新たな技術の開発によってクリアされるだろうし、そこは期待するしかない。 しかし、今の生活様式を改めることなしにはこの問題はどこまでいってもイタチごっこで、いずれは破綻を迎えるのではないだろうか。
エピローグの「産業と技術と社会の革命は、認識の革命を伴わなければ意味をなさないのだ。」という言葉に凝縮されているように、われわれの認識を変革する以外に道はないように思うが、それはいったいどのようにすれば可能だろうか。(オノケン│太田則宏建築事務所 » 進むも退くも、どちらも茨の道 B244 『レアメタルの地政学:資源ナショナリズムのゆくえ』(ギヨーム・ピトロン))

という、技術と意識の2つの革命が必要であるということには変わりない。
さらには、資源の問題と平和の問題のあいだにも深いつながりがあり、課題は山積みである。

脱炭素の号令がなった今、世界はダイナミックに動いています。本書では、その激動の一端をお伝えしましたが、まだ序章に過ぎません。鉱物資源を軸に形成される世界の新たな秩序を目撃するのは、読者の皆さんなのです。(p.264)

序章に過ぎない。これが、本書を読んだ一番の印象かもしれない。

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