B180 『批判的工学主義の建築:ソーシャル・アーキテクチャをめざして』

藤村 龍至 (著)エヌティティ出版 (2014/9/24)

早速『プロトタイピング-模型とつぶやき』と合わせて読んでみた。
これまでの取り組みをまとまった形で読んでみたいとずっと思っていたので待望の単著である。

氏の理論、手法、そして建築を取り巻く環境に対する態度のようなものをどうにかして自分の中の生きたものとして消化してみたいと思っていたし、このブログ(オノケンノート)で考えてきたことを実践に役立つよう具体的に落としこむための道筋を作らねばともずっと思っていた。
なので、フォロアーの劣化版になることを怖れず、これを機会に自分なりにカスタマイズし消化することを試みてみたいと思う。

|  大きな問いとカスタマイズの前提

自分の中の大きな問題意識の一つは、自明性の喪失自体が自明となったポストモダンをどう生き抜くか、ということにある。
藤村氏流に言い換えると、全てが別様で有りうるポストモダンを、単純に受け入れ何でもありをよしとするのでもなく、単純に否定し意味や実存の世界に逃げこむのでもなく、それを原理として受け入れ、分析的・戦略的に再構成する第三の道としてどう提示するか、となるだろうか。

ポストモダンを受け入れた上でどうすればこれを乗り越えられるか。

それは批判的工学主義の持つ問題意識とも重なると思うし、新しい権力・アーキテクチャのもと茫漠とした郊外的風景をどう変えうるかという点で、私自身の問題意識の原点ともぴったり重なる。

超線形設計プロセスは私自身にとって大いに参考になると思われるのだが、ここで私自身の状況に応じたカスタマイズを試みたい。
具体的には小規模な建築物に対して個人事務所として設計にあたるという今直面しているケースを想定して考えてみることとする。

ここで最も影響が大きいのは組織形態が単独の個人事務所である、ということである。
「批判的工学主義の建築」では「その主体はアトリエ化した組織か、組織化したアトリエ」のような組織像とあるが、そのどちらにも該当しなさそうだ。
当然、組織化を目指すという選択肢もあるがそれは可能性としておいておき、あくまで個人事務所として先に上げたケースでの場合を考えてみる。

|  個人事務所のメリットとデメリット、その課題

まずは、カスタマイズに先立って個人事務所のメリットとデメリットを上げてみる。

メリット1:組織の維持コストが抑えられるので、それをクライアントに還元することができる。建築事務所があまり認知されておらず、低予算の案件の割合が大きい地方においては、うまくすれば生き抜くための一つの形態と成りうると考えられる。
メリット2:プロジェクト全体に目を行き届かせることができるし、組織内のコミュニケーションコストを抑えられる。

デメリット1:分業が出来ず、一度に掛けられるマンパワーが限られる。
デメリット2:複数の視点を得ることが難しく、視点の固定化・マンネリ化の危険性が高い。

個人による超線形設計プロセスの利用を考えた場合、経験的に言うとマンパワーと保管場所の点でプロセスごとに模型を作成し保管することは設計のリズムを維持する上でも負担が大きく難しい。

もし、手法の肝と思われるプロセスごとの模型の作成と保管を放棄すると考えた際、デメリットとして

1:コミュニケーションツールが失われるため、プロセスの共有が難しくなる。
2:立体的・視覚的に見ることによる課題自体を探索する機能が失われ、進化の精度・スピードが低下する。

の2点が考えられる。

1については組織内のコミュニケーションの必要性が小さいという本ケースのメリットによってある程度は緩和されると思われるが、少なくともクライアントとのコミュニケーションは必要である。
2については図面や3DCADによるパースやウォークスルー、また必要に応じて模型を作成することで、常に模型を制作せずともある程度は補えると思われる。

以上から、個人事務所がさらなる効率化のために超線形設計プロセスのプロセスごとの模型作成を省略し、これの利用を試みた場合に考えられる課題は

課題A-1:複数の視点を欠如をどう補うか。(データベースの強化?)
課題A-2:クライアントとのコミュニケーション精度をどう高めるか。(UIの強化?)
課題A-3:探索機能をどのように備えて、どう進化の精度とスピードを高めるか。(検索能力の強化)

また、それらに加えて

課題A-4:効率性とともに、どうすれば固有性を高めることができるか。

の4点が考えられる。

|  プロセスプランニングシート案

ここで模型のかわりとしてプロセスプランニングシートのようなものが利用できないか考えてみる。

A3用紙の左側に縮小図面やスケッチ・パース等を進捗に合わせてレイアウトし、右側にプロセスに関わるパラメータを記述する。
その際、右側のパラメーターは例えば、横軸にクライアント、環境、意匠・メタ、構造、設備を、縦軸に解決済み、検討中、新規、消失などとした表の中にプロットしていく(できればパラメータ間の構造も表現)。

これによって、左側は例えばディテールやインテリアなども表現でき総体としての比較精度は落ちるがプロセスをより詳細に記述できるようになり、右側はパラメーターの変遷もプロセスごとに一望・比較しやすくなる。

このシートをプロセスごとに作成しながら設計を進めていく。

また、設計作業を探索過程と応答過程に区分し、実際の作業も明確に分けて行う。

探索過程では、シートの内容を現在の環境として捉え、そこから新たなパラメーターを発見したりパラメーターの構造化などを行う。
『知の生態学的転回2 』における関博紀氏の考察を使わせていただくと、パラメーターの出現・消失・復帰・分岐、連結・複合などの操作を行うことになる。

応答過程では、シートの内容をもとにパラメーターと図面の不整合を取り除くべく設計作業を進めていく。

これらは『知の生態学的転回2 技術: 身体を取り囲む人工環境』によるところの知覚・技術・環境に当てはめることができるだろう。

このように対応させることにより、生態学的な(知覚-技術-環境)の構造による循環に載せることが出来そうだ。

|  課題の整理

これは、先に上げた課題に対して

課題A-2:クライアントとのコミュニケーション精度をどう高めるか。(UIの強化?)
→ プレゼン・打ち合わせ時等にクライアントとともにプロセスプランニングシートを順になぞることで、かなりのプロセスを共有できる。これによってプレゼンの精度を高められるとともに資料作成の手間を省略し効率性も高められる。また、思考プロセスを共有していないことによる無駄な手戻りも防ぐ効果も生まれる。

課題A-3:探索機能をどのように備えて、どう進化の精度とスピードを高めるか。(検索能力の強化)
→ 多くの事務所ではおおまかにはボスが探索過程を担当し、スタッフが応答過程を担当するといった形がとられているように思うが、それを視覚化しつつ一連の流れの中に意識的に配置することで単独でも効率的にこのサイクルを回せるようになり、探索機能を個別に確保できるようになる。また、協力事務所等に作業を依頼する際にもスムーズな連携がとれる。

課題A-4:効率性とともに、どうすれば固有性を高めることができるか。
→ このプロセスの生態学的な循環によって、建築を含めた環境は常に構造的変化を伴い固有性が高められると考えられる。

というように一定の効果があると思われる。

残る課題は
課題A-1:複数の視点を欠如をどう補うか。(データベースの強化?)
であるが、これは課題A-2,3,4に対しても影響が大きいと思われる。

これまでブログで考えてきたことや経験してきたことはデーターベースの強化に役立てられると思うのだが、これを成果につなげるべくプロセスに組み込むにはどうすればいいだろうか。
また、どうのようにすれば探索過程によって発見したパラメーター間の構造を視覚化し、効率性と固有性を高められるだろうか。

ここで残された課題を、先の知覚・技術・環境に当てはめてみると

課題B-1:知覚・・・探索過程に有効なデータベースをどうすれば強化し運用できるか。
課題B-2:技術・・・応答過程に有効なデータベースをどうすれば強化し運用できるか。
課題B-3:環境・・・上記2つで見出された環境をどうすれば構造的に視覚化でき、循環の精度を高めることができるか。

の3つに整理できるように思う。

|  データベースの強化

個人的なメモのように位置づけているブログ(オノケンノート)は属人的課題のようなものを何とか言葉にしようとしてきたものである。
それを成果につなげるためには、これまで考えてきたことや経験してきたことを社会的課題や個別的課題を含めて探索過程と応答過程に分類し整理することが必要と思われる。

ブログでは「何を」考えなければいけないか、つまり探索過程を重点的に考えてきて、「どう」建築につなげるか、つまり応答過程については今後の課題として余り考えられていないと思う。

なので、まずはブログで考えてきたこと探索過程のデータベースとして整理し、次にこれまで経験したことをもとに応答過程のデータベースとして整理することを考えてみたい。

ここで整理する際に枠組みとして例えば以前考えた「地形のような建築」が利用できそうな気がする。

ここでは地形のような建築の特質として自立的関係性とプロセス的重層性の2つを挙げているのだが、

自立的関係性:これを高めるためには青木淳氏の決定のルールのようなものが有用かと思われる。こういった性質を持ったパラメータをデータベースとして整理する。

プロセス的重層性:プロセスを織り込むことは手法自体に組み込まれているので、ここでは重層化することができるパラメーターを並列的にデータベースとして整理する。

といったように整理する枠組みとして利用できないだろうか。これによって応答過程においてもパラメーターを成果に結びつけやすくなりそうな気がする。

ただ、プロセスを共有するためには相手になぜこの枠組を用いたのかを説明し理解して貰う必要が出てくるかもしれない。なるべく簡潔に説明できるようにしておく必要があるだろう。

これは一つの例で他にも統合してみたいモデルがいくつかあるので、枠組み自体は今後変化していくものと思われる。

|  終わりに

ということで、まずはシートのフォーマットを作成し実践に組み込むことから始め、平行してB-1,2,3の課題解決に向けて手を動かしてみようと思う。
また、この過程を通じてシステム自体の汎用性と固有性のバランスを調整し、徐々に固有のシステムへと変化させていければと思っているし、それには実践を通じて自分の環境自体にも同様の循環を重ねて発見とフィードバックを重ねる必要がある。まだまだ先は長い。

藤村氏の論の構造と流れについてはある程度は理解できたような気もするが、氏がデータベースの構築と運用をどのように行っているのか?多くは氏の頭の中にのみ存在するのか、それとも何らかの方法で共有がはかられているのか?興味のあるところである。




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