B109 『正義のミカタ ~I’maloser~』

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書評/国内純文学


これも本が好き!プロジェクトより献本していただいた人気青春小説作家による待望の書き下ろし最新刊。まだ発売前の試し刷りのものを頂きました。[注:以下ネタばれ]

”青春小説”が口に合うか怖かったのだが、他の評者の方の評価が高かったのでつい申し込んでしまった。(しばらくは読書ペースを落すつもりだったのに・・・)

複雑な人間関係を描く少女漫画に比べて、少年漫画は善が悪をやっつけるという勧善懲悪の単純な図式ばかりで実社会の複雑さから取り残されている、と言うようなことを指摘したのは確か宮台真司。

この物語も少年ジャンプ的な勧善懲悪の図式で話が進む。
いじめられっこの達人とでも呼べる主人公がその達人振りを買われ一気に形勢逆転!という痛快なストーリーなのだが、その痛快メカニズムもまさに少年ジャンプ的だ。

読みながら”しまった、やっぱり単純な青春小説だったか”と後悔の念が浮かぶ。

しかし、話はある先輩の登場から深みを増し、単純な図式は徐々にグレーなものへと変わっていく。
そして、”なるほどねー!”という感じのラストを迎える。
(部長があんなことになるとは・・・ここはちょっと意外だった)

とはいえ、結局少年ジャンプ的範疇を抜け切れなかった、と言うのが僕の正直な感想だ。小説として十分に楽しく読めたのだが、主人公とある先輩以外のキャラがなんというか想定内過ぎて感情移入できなかったし、僕の中の気付かざるグレーな部分が激しく揺さぶられた、と言うところまではあと一歩行き着かなかった。
これは割りと評判がよかったらしい(?)『華麗なる一族』に同じ理由でまったくといってよいほど感情移入できなかった僕なので他の方はどうか分かりませんが・・・

ここで視点を変えて主要なテーマになっている”正義”について。僕は”正義”というものに結構な不信感を持っている。
アメリカが戦争をするときに持ち上げるのも正義だし、経済格差を生み、弱者を生みだすのもある種の正義だ。正義は強者の側の論理であって、弱者を助けるだけではなくときには強者の立場を守り弱者をさらに追い込むためにも使われる。いっそ猫のように正義や悪といったものはどうでもいい、ぐらいのほうが健全なのかもしれない。では、主人公は最後に猫になろうとしたのだろうか?
そんな気もするが、少し違う気もする。

ほんとのラストで主人公は電車で老人に席を譲ろうとして失敗し、小学生に「ダッセェ」と呟かれる。
それに対し「ださい。よかった。それなら僕のやり方だ」と満足する。

主人公は猫になろうとしたのではなく、正義に対するスタイルを自分にしっくりするものに変えた、と言ったほうが良いかもしれない。

しかし、それは正義を振りかざしたり、無責任・無関心を装うよりは一歩進んだと言ってよいのではないだろうか。
ボランティアにしろ何にしろ、何か行動を起こすには「これは利己的な行為である」という自覚、ある種の偽善を受入れることからしか始まらないと思うから。

そんな風に自分なりの世界との関り方を見つけ出したストーリー、という意味では、これはまぎれもなく青春小説の逸品であります。

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